ゲームやエンタメなどの領域で広がりを見せる、XR技術。実は、教育にも非常に高い効果を発揮することをご存じですか?
「今のまま学校に通わせるだけで大丈夫なのかな?」「現在の学校教育で不足する部分を補うには?」「AI時代に必要な教育って何なんだろう?」と悩む保護者の方や教育関係者の方に、XRは大きな可能性を示してくれます。
本記事では、XRの概要、XRを教育に使う場合のメリットや注意点、XRの活用によって身につくスキル、手軽に利用できる教育用コンテンツなどを解説します。読み終わる頃には、XRを活用した教育に関して一通りの知識が得られるはずです。
本記事の内容を参考に、XRを教育に取り入れるための第一歩を踏み出してみませんか?
XRとは
XR(Extended Reality/拡張現実)は、AR(Augmented Reality/拡張現実)、VR(Virtual Reality/仮想現実)、MR(Mixed Reality/複合現実)をひとまとめにした用語です。以下で、ひとつずつ解説しますね。
ARは、現実の世界にデジタル情報を重ね合わせる技術です。「ポケモン GO」のようなゲームやナビゲーションアプリなどで活用されています。
VRはユーザーが完全に仮想世界に没入する技術で、主にゲームや映画、体験型コンテンツで用いられています。コンピュータなどによって作られた仮想世界・映像世界を、あたかも現実世界のように体感できるものです。PCやスマホでも体験できますが、専用のヘッドマウントディスプレイ(ゴーグル形状のVR表示装置)を装着すると没入感が増加します。
MRは「現実世界と仮想世界が融合された環境」を表す概念です。現実空間やAR、VRなどを全て含むもので、厳密にはARやVRよりも一段階上の概念ということになります。
一般に、MRは「現実空間を認識する仕組みを持つ技術」と説明されることが多いようです。例えば、ARの場合は現実空間に表示された画像に干渉することはできません。しかしMR の場合、この画像を手で操作したりできるようになります。この意味で、MRは「現実空間と仮想空間をシームレスに融合させる技術」だと言えるでしょう。
近年、XR技術はソフト・ハードともに日進月歩で発展しており、様々な分野で導入が進んでいます。例えば、医療分野では手術のシミュレーションやリハビリテーション、自動車産業では設計や試作の工程などで利用されています。また、映画やゲーム、音楽、スポーツといったエンタメ分野でも日々新しいコンテンツが生み出されています。
XRは子どもの教育にも活用されはじめている
そんな大注目のXR。実は、子どもの教育にも活用されはじめています。
各教科での活用例は以下のとおりです。
教科 | XR活用例 |
---|---|
数学 | 3次元グラフや幾何学図形の可視化 |
理科 | 化学反応や生物の構造の観察、実験シミュレーション |
地理・歴史 | 古代遺跡や歴史的建造物のバーチャル訪問 |
外国語 | 海外旅行体験や会話練習 |
美術 | 絵画や彫刻の立体的観察、VR空間でのアート制作、VRでの美術館訪問 |
音楽 | 楽器演奏の練習やオーケストラ演奏のシミュレーション |
XRを使えば、旅行体験や遺跡訪問、実験シミュレーションなど、これまでの学校教育では難しかった教育を実現できることが分かります。XR技術は従来の教育方法に新しい風を吹き込み、より効果的で楽しい学習体験を提供するものなのです。
XR教育を行うメリット
XR教育には多くのメリットがあります。中でも、私が特に「これは!」と思ったメリットを以下に3つ挙げてみます。
メリット①:体験型学習や能動型学習(アクティブラーニング)が実現できる
VRを使ってリアルな環境をシミュレートすれば、まるでその場にいるかのような体験ができます。わざわざ現地に行かなくても、体験型学習を効果的に実現できるのです。
また、VR環境ではユーザー自身が仮想空間にあるモノに触れて、操作しながら学習を進めます。身体を動かしながら能動的に学習できるため、学習内容を効果的に記憶・理解できます。
さらに、XR学習を提供するプラットフォームの中には、さまざまな3Dモデルや画像を組み合わせて、子どもや教師自身がXRコンテンツを作成できるものも存在します。このようなプラットフォームを使えば、調査・検討しながらコンテンツを作成する過程を通じて、子ども自身が主体的に学習を進めることが可能です。
メリット②:失敗しながら学ぶことができる
VRコンテンツ内では、実験などを何回でもやり直すことができます。つまり、「失敗しない教育」から「失敗して学ぶ教育」への転換が可能なのです。反復学習によって理解度が深くなる点もメリットでしょう。
メリット③:高い再現性により、知識の吸収効率が向上する
XRを駆使すれば、高い再現性で現実に近いシミュレーションを行うこともできます。リアルに近い経験ができるため、学習効率が向上するはずです。
XR教育では、どのような実践的スキルが身に付くのか?
XR教育を通じて、子どもたちはどのようなスキルを身に付けることができるのでしょうか。たくさんあると思いますが、代表的なスキルを以下に3つご紹介します。
①コミュニケーション能力
XRを活用した外国語教育では、仮想環境で異文化と触れ合い、リアルなコミュニケーションを体験できます。これにより、子どもたちは実践的なコミュニケーション能力を身につけることができるでしょう。
②問題解決能力
XR教育では、子どもたちは現実に近い状況で問題を与えられ、その解決策を模索します。これにより、現実の問題解決に役立つ実践的なスキルを習得できます。
③自己学習能力
XR教育コンテンツには、「楽しんで学ぶ」趣旨のものがたくさんあります。これらのコンテンツを活用することで、子どもたちは意欲的に学ぶようになるでしょう。結果として、自ら知識や技術を習得する力が身に付くはずです。
XR教育を行う際の注意点
XR教育には、いくつか注意点も存在します。代表的な注意点を以下に挙げました。
注意点①:安全性に関しては親や教育者のサポートが必要
XRデバイスを使用する際には、適切な使用方法や使用時間を守らなければ、健康(視力や姿勢など)に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、一般社団法人エンターテインメントXR協会は「VRコンテンツのご利用年齢に関するガイドライン」内で、「13歳以下の子どもに施設向けVRコンテンツを利用させる際には注意が必要」だと呼びかけています。
また、仮想空間での活動が多くなると、現実世界での活動に支障を来たす場合もあるかもしれません。親や教育者が適切に監視し、サポートする必要があるでしょう。
注意点②:使用するデバイスやコンテンツによっては、費用がかかる
XRデバイスやコンテンツの中には、比較的高額なものもあります。例えば、家庭向けのスタンドアロンVRヘッドセット「Meta Quest 2」の最低価格は59,400円(2023年4月時点)、PlayStationに接続して使用するVRヘッドセット「PlayStation VR2」の本体価格は74,980円(2023年4月時点)です。これらのデバイスを購入できない学校や家庭もあるとなると、経済的な格差が教育の機会格差につながる可能性もあるでしょう。
注意点③:指導者は技術スキルの習得が必要
XR技術を家庭や教育現場で活用したい場合、親や教師が技術的なスキルをある程度習得する必要があります。このスキル習得には時間と労力がかかるため、負担になる場合もあるでしょう。
家庭や塾でも手軽に利用できる、子ども向けのXR教育ツール
「XR教育には費用がかかる場合もある」と上で述べましたが、実は無料かつ手軽に活用できるプラットフォームやツールも存在します。例えば以下のようなものです。
・スマートフォンなどで利用できるVR・ARアプリ
・メタバースプラットフォーム「cluster」
・メタバースプラットフォーム「VRChat」
・XRプラットフォーム「DOOR」
・オンラインゲームプラットフォーム「Roblox」
XR教育の可能性を広げる「メタバース」
XR教育の世界で現在注目されているのが、「メタバース」です。
メタバースは、メタ(高次元の)とユニバース(宇宙)を組み合わせた合成語。インターネット上の仮想空間で、ユーザーが自由にさまざまな活動(購買活動や娯楽活動、コミュニケーションなど)を行える概念を指します。XRは、メタバースを実現するためのひとつの手段です。
実は、「教育とメタバースは相性がいい」と考えられています。メタバース空間では、インターネットを通じていつでもどこでも学べるため、従来の教育にあった地理的・物理的制約を容易に超えることが可能です。さらに、XR技術の活用によって、「没入感のある深い学び」や「失敗を恐れない反復学習」を実現できます。
現在、さまざまな企業がメタバースサービスを展開しています。日本では「cluster」、海外では「Horizon Worlds」や「VRChat」が有名どころですね。これらのメタバースにはエンタメやヒーリング系のコンテンツが多いのですが、将来的には教育向けのコンテンツも増えていくでしょう。また今後、教育に特化したメタバースの構築も進む可能性があります。実際、ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)会長の礒津政明氏は、著書「2040 教育のミライ(実務教育出版)」の中で以下のように語っています。
仮想空間ならではの「何度でもやり直しのきく世界」は、失敗を恐れずに無心でチャレンジでき、「非日常で安全なサードプレイス」での新たな出会いや刺激的な発見につながるはずです。
引用元:礒津政明「2024 教育のミライ(実務教育出版, 2022)」p.283
そのために私たちSGEは、多様な学びのためのVRメタバースとして、実験的に新たな仮想空間を構築中です。
おわりに
グローバル化やDX化、さらにはAIの登場によって急速に変化し続ける現代。未来が読めないからこそ、子どもたちにどのような知識やスキルを身につけさせるべきか悩むと思います。もちろん、私(3人の母)も同じです。「今と同じ教育方法ではダメだろう」ということは分かるものの、では何をすればいいのか。かんたんには分かりませんよね。
XR技術の進歩とともに、XR教育の可能性は今後ますます広がると思われます。伝統的な日本型教育のよい部分を大切にしつつも、親や教育関係者がXR教育を積極的に取り入れていく姿勢が重要なのではないでしょうか。
私も3人の子を持つ親として、みなさんと一緒にXR教育について学んでいきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします!
参考
- 吉満貴志. “教育分野でのXRの活用と今後の展望”. https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/16/3/16_185/_pdf
・礒津政明. 2040 教育のミライ. 実務教育出版, 2022.
コメント