ミシガン州トロイに拠点を置くエドテック企業Alchemieは、2022年7月14日付のプレスリリースで、同社のKasi学習システムを市場投入するために教育省の教育科学研究所(IES)から100万ドルの中小企業技術革新制度(Small Business Innovative Research、SBIR)補助金を受け取ったと発表した。
SBIRは、中小企業の研究開発の事業化を目的とした資金支援プログラムだ。今回のSBIR補助金は、社会にポジティブな影響を与え得る革新的な技術を開発する中小企業に対して授与される。
ゲームを活用したデジタル学習ツールを提供するAlchemie
Alchemieは、2016年に設立されたエドテック・スタートアップだ。ゲームを活用したインタラクティブな学習ツールを提供している。
同社が現在力を入れているのが、デジタル学習ツール「Kasi」だ。
Kasiは、多感覚AR(拡張現実)とコンピュータ・ビジョンを活用して、全ての生徒、特に視覚障害のある生徒が化学や物理を探究するための学習システム。生徒はマウスやタッチパッドの代わりに、化学記号や点字が刻まれた専用のパーツを操作し、対話型学習を通して化学構造を学習する。パーツが生徒に「語りかけ」て、ガイダンスするのだ。触覚と聴覚のみを使用して、化学というミクロな世界を理解することを目指している。
上図に示すように、Kasiシステムで使用する「結合(bonds)」と「ローンペア(lone pairs)」のパーツは、「原子」パーツにぴったりフィットするように、側面がへこんでいる。そのため、学生はKasiシステムに誘導されながら、化学構造をスムーズに操作できるという。
視覚障害のある学生が科学のキャリアを継続する手助けを
Kasiシステムの必要性について、Alchemieの創業者兼CEOであるJulia Winter氏は以下のように説明する。
「視覚的なインタラクションに依存するオールデジタルな学習ツールへの移行に伴い、視覚障害のある科学系学生は、学習について行くのがさらに難しくなっています。KasiのようなツールからSTEMスキルを学ぶことで、視覚障害のある学生は、科学志向のキャリアを継続する自信を持てる可能性が高くなります」
Alchemieは大手教育出版社と提携することで、Kasiを含む革新的な学習ツールをコンテンツや宿題システムに統合し、すべての生徒にとって真に利用しやすい学習体験を実現することを目指すという。
同社は、前述したSBIR補助金とは別に、ミシガン州の新興技術支援基金(Michigan Emerging Technology Fund)から125,000ドルの資金を獲得している。同社は今回の助成金と資金を活用して、ミシガン州北西部のトラバースシティ地域で、インクルーシブ・パッケージングとKasiの触覚ピースの設計・製造に取り組む予定だ。
『目標は、「生まれながらのアクセシビリティ」を持つ学習システムを作り、障害のある学習者への対応を製品のアドオンとしてではなく、主要な機能として提供すること』だというAlchemie。同社の学習システムが学習の常識をどのように変えるのか、今後も注目だ。
参考記事
ALCHEMIE EARNS $1M GRANT FOR ACCESSIBLE LEARNING FOR STEM
Michigan-based Alchemie Receives $1M Grant for Accessible Learning for STEM
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